
「・・・でも、逃げてますよね」
「逃げてはいけない、なんて道理を聞かなくてもいいよ。そんなのは、人を殺す正義だ」
-透明な夜の香り 千早茜著 (集英社) より―
転載したやりとり↑は、個人的にうなずいたところ。
ワタシの周りには、逃げることは悪いこと、卑怯なこと、逃げてはいけない‥と思っておられる人が多いような気がしている。みんな、真面目で向上心のある人。
だけど、立ち向かうのが良いことで、逃げるのはダメなこと・・・なのだろうか?とワタシはちょっと疑問なので(^^; ただ、立ち向かえば立ち向かった結果が、逃げれば逃げたことに相応しい未来が(たぶん)用意されている。
自分の選択の結果を引き受ける覚悟があるならば、なにを選んでも、その人の自由なんだろう。
この本は、クライアント様に教えていただいた。
本や映画や絵画や美しい場所‥‥素敵なものをいろいろ教えていただけるのは、このお仕事の楽しみのひとつです。(皆様いつもありがとうございますー)
「透明な夜の香り」は、人間離れした嗅覚の持ち主である調香師(男性)に雇われた、若い女性が主人公。仕事は家政婦兼事務員。彼女の心の中には、誰にも言ったことがない苦しい秘密がある。
雇用主である調香師は、香料や植物の香りはいうまでもなく、人の体臭のかすかな変化で、体調や感情がわかる。誰かの持ち物を嗅げば、まったく面識のない人物でも、人混みから特定して探し出すこともできる。・・・警察犬みたい笑
この調香師のもとには、「誰にもいえないナニカ」を持った人が、それぞれの事情を抱えて、香りの制作を依頼しにやってくる。その仕事を手伝いながら、かなり特殊な環境の中で、主人公は自分の心の闇と向き合うことになる。
物語全体を通して、香りに関する表現が細やかで適確だなぁという印象を受けた。言葉が多すぎず少なすぎず、文章を読んでいると、その香りが鼻から脳に香りが立ち上っていく。面白い(^^)
そして、その調香師は、主人公にこんなことを言う。
「香りは脳に刻まれる。永遠に」(←この通りの言葉遣いではないです)
これは、アロマテラピーの勉強をしていても、どこかで聞くことなのです。
匂いの記憶は、一度脳に刻まれたら、ずっと消えることはない。日頃はすっかり忘れているエピソードでも、その匂いを嗅げば、一瞬でその時の状況や感情を思い出す。ありありと。
アロマのクラスをしていて、なにかの精油を嗅いで、昔の記憶を思い出す受講者さんを、今まで何人も見てきました。時には、泣き出す人もおられる(^^) 過去に抑圧した感情を解き放てたのだと思います。
香りは、目に見えずカタチがなく繊細だけど、非力ではない。時には、人を大きな力で突き動かす。
映画「パヒューム」などにも描かれていますね。あれはちょっとコワいけど(^^;
いつぶりだろう?と考えたくらい、小説の世界に入り込むように読書に耽ったのは、ほんとに久しぶりでした。
それにしても、香草や、広い菜園に囲まれた洋館で、清涼な空気の中で、静かに、淡々と、依頼者の秘密の香りを調合する毎日かぁ。。。小説の中の人だけど、まったくもって、羨ましい生活です笑